令和2年度 京の環境を考えるポスターコンクール
令和2年度 京の環境を考えるポスターコンクール
個別講評:審査委員長 京都教育大学美術科 教育教授 村田利裕
最優秀賞
「へらそうプラスチック」
宇治田原町立田原小学校 4年
勝谷 栞さん
講評
最優秀賞は、勝谷栞(宇治田原町立田原小学校、4年)さんの作品「へらそうプラスチック」です。
この作品は、海洋汚染の克服をテーマにし、「海に目を向けよう!」と訴えています。絵の具の濃淡を生かしながら空と海を描き、不安な海洋の状態を暗示します。「へらそう」の文字に目を移すと、魚の形を描き加え、文字の形とダブルイメージにしています。知られていない海の魚は多いものですが、まさしく1匹1匹、こんな模様の魚があるのじゃないかと生き生きと表現されています。
この作品では海面は盛り上がり、高い温度での変容を予感させます。海の不気味な姿が形や色になっているのです。海の表現というと、どうしても波しぶきや激しい波形表現にとらわれがちです。この作品は、海の環境問題にしっかりと照準を合わせ、安易な妥協がないのです。その一例として右の海面表現を取り上げると、空側に黄色か緑色を加え、海面を少し影のあるような濃淡で表現しています。海の現状をどう捉えるべきか、繊細な感性がかなり働いている作品と言えるでしょう。
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中央には、クジラが、沢山のプラスチックゴミを飲み込んで泣いています。クジラの口の線を重ねた表現は、濾過摂食のための鯨ひげでしょうか。面白いことに、口の中に流し込まれる海水の方向性に生かされています。クジラを上手に描けばよいという作品も多いものですが、勝谷さんのこう描きたいという心が感じられます。
この作品の最も特筆すべき所ですが、買い物袋やペットボトル・スプーン等のプラスチックゴミやハンガー等が、海全体に浮遊している描写が圧巻です。60〜70も描かれているでしょうか。ゴミの形が明確に判別できるものや、少しの姿が確認できるものまで、紺色の濃淡を巧みに使って表現しています。海の空間規模(奥行き)の大きさを感じさせながらも、そこに充満するゴミの膨大な状況が見事に表現されています。
2020年は、プラスチック製買物袋(レジ袋)有料化からプラスチックゴミの削減を目指すはずでした。ところがコロナの発生で食品関係のプラスチックゴミは、減るどころか増加の傾向を見せているのかもしれません。単に標語を美術的にポスターにしたらよいのだという作品が多い中で、勝谷作品は、海の中にここにもプラスチックゴミがあると、随所に環境へのメッセージが語られている作品だと言えるでしょう。見る人が、一つ一つ数え上げるように作品を見ると、海洋汚染に対する勝谷さんの強い思いが一層伝わってきます。自分の工夫を粘り強く誠実に表現した点を高く評価しました。
優秀賞
「守るのは体だけですか マスクはゴミ箱へ」
京都市立下京中学校 1年
郷原 安余さん
講評
郷原安余(京都市立下京中学校、1年)さんの作品「守るのは体だけですか マスクはゴミ箱へ」を優秀賞としました。
この作品は、マスクの廃棄物が海洋汚染につながっていることを取り上げたポスターです。現在、使い捨てマスクが海に廃棄され生態系の新たな脅威となっています。郷原さんの作品は、目立つレモンイエローを主調色とし、思い切った構図と、明快でダイレクトな表現で美しいポスターを生み出しました。
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2020年は、新型コロナウイルス感染症の発生による対策で、あらゆる人がマスクなしではおれなくなりました。ところが、何気ない廃棄行為が、重大なことになっているのをさりげなくそっと教えてくれる作品と言えるでしょう。左上を思い切って大きくレモンイエローの表現とし、下の部分をセルリアンブルーの海表現とし、独自性の高い目立つ表現としました。色の響き合いが重要なので、しっかりと丁寧に色面を塗っていく必要があります。誠実な表現姿勢が作品全体から感じられます。さらにマスクが、人が廃棄している上部(面積で4/5程度)とセルリアンブルーの海エリア(面積で1/5程度の下の部分)をつないだように表現されています。日常の廃棄行為が、ゴミの海洋投棄につながっていることを象徴する優れた表現となっています。人のつけているマスク、捨てようとしているマスク、海中のマスクの3角形をなす構造も画面にリズムを生んでいます。メッセージの今日性と表現の独自で明快なデザイン性を高く評価しました。
「戻ってこいホタル」
京都共栄学園中学校 1年
薗田 ちひろさん
講評
薗田ちひろ(京都共栄学園中学校、1年)さんの「戻ってこいホタル」を優秀賞としました。
この作品は、川の姿を極限までに繊細に美しく表現し、ホタルが生息できる優れた自然環境を願う作品です。子どもの訪れている川は、増水などの影響でしょうか、コンクリート製の川の護岸に、土がたまり草が綺麗に生えています。
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廃棄された空き缶やビニール袋などのゴミの回収など、人々の努力が実ったのかもしれません。川はとても美しい姿となったのです。画面の右に水を両手ですくった子どもがいるのですが、その対岸にさらさらと流れる水の姿が印象深く描かれています。透けて見える川底の岩や砂の様子でしょうか。小魚の群れでしょうか。美しくなった川に対岸の風景が映った姿でしょうか。群れなす蛍の幼虫の群れでしょうか。線的な表現を積極的に使って、独自な河川美の表現としています。環境の回復を繊細な表現を重ねることで表現した優れた作品と言えるでしょう。
「増えるごみ 減る命」
京都市立桂中学校 1年
野呂 柊花さん
講評
野呂柊花(京都市立桂中学校、1年)さんの「増えるごみ 減る命」を優秀賞としました。
この作品は、クジラの命が奪われるという衝撃的な印象を画面構成を生かして表現した作品です。
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涙を流すクジラのリアルな表現、両側から鯨を襲う波の表現(波のハート形から命などを連想させます)、広がる基本的な幾何形態(2つの波の中心から、爆発したように広がっています)など、この作品は、自由な画面構成を駆使して、ゴミの爆発的な増大と減少する命の深刻な事態の重大局面を突きつけてきます。
「地球緊急事態宣言 発令中」
京都共栄学園中学校 1年
谷村 佳子さん
講評
谷村佳子(京都共栄学園中学校、1年)さんの「地球緊急事態宣言 発令中」を優秀賞としました。
このポスターのメッセージは、本年(2020年)の新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言をもじってのメッセージだと推察されます。
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コロナの場合のように、「瀬戸際」の意味も強く感じられます。この作品では、溶けるように水がしたたっている地球が作品の中央に配置されています。黄色の鳥が棲み緑豊かな森がある一方、伐採され緑を失った森や煙を吐く工場、セメントだらけのビルの街、戦争が起こり土地がむき出しになって炎を上げている地域もあります。海では、海藻が生え魚が元気に暮らしている場所もあれば、ゴミが海中投棄されている場所もあります。台風の発生を予感させる場所もあるのです。「リアルな現実の限界状態をどうする」とわれわれに問いかけてくるようです。
「みんなの工夫でクリーンな未来を」
京都府立福知山高等学校附属中学校 3年
瀬 仁輝さん
講評
瀬仁輝(京都府立福知山高等学校附属中学校、3年)さんの「みんなの工夫でクリーンな未来を」を優秀賞としました。
自然や環境に配慮した生活はどうしたらよいでしょうか。何から行動すればいいのか迷っている人も多いですが、その取り組みの必要性は多くの人が理解しているところです。
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この作品は、あらゆる人がそれぞれの工夫を積み重ねる大切さを訴えた作品です。作品には、水を撒いて暑さ対策をしている子どもや、扇風機で部屋の空気を循環させ、汗はタオルで拭くことをいとわない子どもなど、通常のエアコンを主力とした暑さ対策に一石を投じています。軽やかさを感じる色彩構成からは、普通に取り組めるよと言ってくれているようです。 分かっていても行動に移しにくい日常に、刺激を与える優れた作品だと思われます。
「そのゴミは あなたに返ってくる」
京都市立双ヶ丘中学校 3年
松原 由香さん
講評
松原由香(京都市立双ヶ丘中学校、3年)さんの「そのゴミは あなたに返ってくる」を優秀賞としました。
松原作品の中央には、魚の形をした食材が置かれていて、今からナイフとフォークで食べようとしています。驚くことに、その魚の中身は、何十個ものペットボトルやプラスチック製品やビンなどで埋め尽くされているのです。
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右上にセピア色の猫がこちらを見ています。「その魚は、あらかたゴミだよ!」と言ってくれているのでしょうか。「ゴミ食べちゃ駄目!」と言ってくれているのでしょうか。想像しながら鑑賞すると楽しくなります。なんと多くの生活ゴミにわれわれは直面しているか。そう感嘆させる作品です。循環するゴミの実態をわれわれはどうするべきなのか、イラストは軽妙に表現されていますが、大きな問題を突きつけています。
「Go to ecobag エコバッグへ移行!!」
宇治市立西小倉中学校 2年
三宅 静流さん
講評
三宅静流(宇治市立西小倉中学校、2年)さんの「Go to ecobag エコバッグへ移行!!」を優秀賞としました。
この作品を見ると誰の目にも、しっかりしたバッグの印象が目に飛び込んできます。
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レジ袋も単なる悪役ではなく、しっかりと包み込んで運べる用具に位置づけられていますし、繰り返し利用可能なエコバッグも、頼りになる次のバッグとして扱われています。どうあるべきかしっかり捉える必要性が作品の底に流れているようです。
メッセージの「Go to ○○」は、政府の推進する「Go To Travelキャンペーン」などを捩ったものかもしれません。また、「移行!!」と「Go to」とでは、意味と音の連想を関係させているのかもしれません。洒落を入れながら、しっかりした印象も同時に提示する点が、三宅世界の独自で楽しいあり方だと思われます。
奨励賞
「資源は大切に」
京丹後市立網野中学校 1年
髙家 詩乃さん
講評
髙家詩乃(京丹後市立網野中学校、1年)さんの「資源は大切に」を奨励賞としました。
この作品は、環境問題に対して、教訓や解答を示すというのではなく、資源の素晴らしさをしっかり見つめるところから、環境問題を考えようとする作品です。作品の中心に地球を描き伸びゆく植物と、海面を思わせる波で構成しています。
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上半分には、緑の葉で赤い実をつける植物が描かれています。葉の緑色を多彩に描きわけ、見る人に、太陽の下でみずみずしい成長をしている植物の素晴らしい印象を与えます。下半分は、海など水環境が取り上げられています。重なる波で表現し、優美な曲線でドラマチック・雄大・壮大に表現されています。水資源と植物への高らかな賛歌とよぶべき作品と言えるでしょう。
「僕の未来設計図しぜんと共に生きる。」
精華町立山田荘小学校 4年
森川 真人さん
講評
森川真人(精華町立山田荘小学校、4年)さんの「僕の未来設計図しぜんと共に生きる。」を奨励賞としました。
この作品には、自然と共に生きる姿が提案されています。作品右上には、ピンク色のビルが表現されていますが、その街の中心にはかなり大きな実のなる木が植えられています。大きな木でも海の風を受けているのか、海側から陸側へ木は押されています。
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この木は、見かけだけかも知れませんが、高層のタワーやビルに匹敵する大きさです。自然を従わせるのではなく、対等を前提としているところが素晴らしいところです。また、病院や学校も街の中心にあります。高層ビルよりも全面に表現される価値観のあり方が、森川作品の真骨頂です。
街の手前に目を移すと、森のような木が育っている大きなエリアがあります。さらにその手前には、太陽光発電や海水利用の施設があります。また、天候に左右されない野菜工場もあります。作品の左は、海洋施設が表現され、連絡橋が渡されています。街が海に積極的につながっているところに特色があります。森川世界の素晴らしいところは、人の街も世界の一部で、海や森林との共生が計られているところです。この作品を拝見すると、現在の大人の生み出している社会が、相互関連を「断ち切る」構造であり、単独独自収益主義に満ちていると多くの方が自戒の念をお持ちになることでしょう。森川作品は、その扉を叩く大きな力だと思います。
「だれがほかしたんや」
南丹市立園部小学校 4年
大石 直紘さん
講評
大石直紘(南丹市立園部小学校、4年)さんの「だれがほかしたんや」を奨励賞としました。
この作品には、2匹のクワガタ虫とカブト虫がクローズアップされて表現されています。緑色のゴミをクワガタ虫が、赤色の袋のゴミをカブト虫が捕らえて、「だれがほかしたんや」と訴えます。クワガタ虫やカブト虫がいるような豊かな森や林に、自然を味わいに出かけた人がいたのでしょうか。
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ゴミの持ち帰りはキャンプなどアウトドア派の外遊びでは必須のことかもしれませんが、海や山に置き去られるゴミがあるのも事実です。虫というと全身を入れて表現されることも多いですが、頭部を巧みに構成して、人のように訴えることのできる主体としての虫を表現しています。擬人化し誇張したイラスト表現というよりは、とてもナチュラルな感じを受け、本当にクワガタ虫やカブト虫の内面的な訴えが伝わってくるようです。目の中心を「-」で表現して、角度から感情表現としているところが効果を上げています。女性で世界ではじめてエベレストの登頂に成功した田部井淳子さんが、自身の登山で酸素ボンベを山に残してきた反省からゴミ問題にしっかり取り組まれたことが彷彿とされます。訴えられているのは、当然ですが人間です。大石さんが日頃から豊かに自然と関わっておられる、それが原動力となって作品がつくられているのかも知れません。
「映えない!」
京都市立下京中学校 1年
野村 遥香さん
講評
野村遥香(京都市立下京中学校、1年)さんの「映えない!」を奨励賞としました。
この作品では、明るい夜空に典型的とも言える美しく細いC型の三日月が出ています。三日月は、満月と共によく知られた印象深い月の形です。多くの人が、何の違和感もなく野村世界に引き込まれていくことでしょう。
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一方、月明かりは、少ないはずなのに明るく青々とした夜空です。この明るい紺色を背景に中央には、補色のレモンイエローで「映えない!」と目立つ演出をしています。月そのものは、白色に近いのに文字は、月明かりに照らされたかのように「映えない!!」が目に飛び込んできます。絵の下方は、おしゃれなカフェなどお店屋さんの並ぶ道です。その前に、プラスチック製の透明無地カップが沢山使用済みになっています。カップにはストローが刺さったままで、その色はドリンクを飲むときに楽しさを演出してくれる綺麗な明るい赤紫、暗めの青緑、レモンイエロー、ブルーなど色鮮やかですが、容器内は、明るい淡い色に演出されています。さらにこの作品では、カップ内の見えにくいところのストローの光沢や残ってしまった氷やタピオカかナタデココがうっすらと姿を見せています。そこまで念入りに追求されるのです。透明感のある明快で刺激的な新体験のような世界が、追求の手を緩めず表現されています。野村作品は、今日の都市的世界を極めて的確に表現した独創的な作品だと言うことができるでしょう。
「しぜんは たのしい あそびばだ」
宇治市立大久保小学校 1年
成田 芽生さん
講評
成田 芽生(宇治市立大久保小学校、1年)さんの「しぜんは たのしい あそびばだ」を奨励賞としました。
成田作品は、大きな木のある自然の場所で、にこにこ顔の子どもが、元気に活動しているところが作品となっています。子どもの姿がとても豊かに表現されています。
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この子の髪型に注目すると、活発に動くためでしょうか、低めの位置で結んだローツインテールに髪を結び、髪の毛は元気にスイングしています。頭のてっぺんには、少しはねたような髪が見えています。おでこの髪型は、幾重にもなっています。ほっぺたもピンクで血色がよく、まさしくにこにこの笑顔です。白いかわいいエリのピンク色の服を着て、薄い空色パンツは濃い色の水玉がらで、黄色の靴を履いています。この子が、ヒマワリでしょうか、花の咲いている草原を元気に走っています。髪型や手足の躍動感から、この子の周りには、どこか涼しげな風が流れているようにも感じられます。大きな木の大きな葉っぱは、自然の存在感を象徴しています。葉っぱは、少し違ったサイズや角度を随所で変えることで、自然の信頼感や頼りがいが感じられます。安定していて、人が一緒に関われる自然環境の素晴らしさが際立つ表現となりました。
佳作
「DON'T CUT TREE, PLEASE」
京都市立双ヶ丘中学校 3年
林 拓磨さん
講評
林 拓磨(京都市立双ヶ丘中学校、3年)さんの「DON'T CUT TREE, PLEASE」を佳作としました。
二本の樹木が元気に、樹木を頼むから切らないでと訴えている作品です。現在、森林破壊ともいえる伐採が進んでいます。左の樹は、樹木の妖精にでもなったように目や口があります。人の活動をしっかりと見つめ、勝手に切るなと訴えているのです。右側の樹木は、左目がまだ人のような目に変身しきれていないのかも知れませんが、葉っぱ3枚の表現がかなりユニークです。
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この作品は水彩絵の具ではなく、線描のできる画材を繰り返し並置したり、重ねたりしながら表現しているので、色の発色性や鮮やかさが群を抜いています。樹木の幹も上部を暗い色、下部を明るい色で塗り分け、樹木の存在感や素材感を表現するのにも成功しています。他に類を見ない、ポップな軽妙さやしゃれた印象の強い感じに仕上がりました。
「きれいな水を」
京都共栄学園中学校 1年
柴 孝喜さん
講評
柴 孝喜(京都共栄学園中学校、1年)さんの「きれいな水を」を佳作としました。
作品の左側には、美味しそうに水を飲んでいる亀さんが大きく描かれています。亀さんの緑色の甲羅は、かなり変化に富んだ姿をしていて、2本足で立つ人に近い擬人的なポースに負けていない、動物的にリアルな迫力を生み出しています。
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この亀さんは目を閉じて水を味わっていて、作品からは、ゴクンゴクンと音がするようです。紫色の背景に黄色の頭部や手足、尻尾をもった構成が、独自の世界表現となっています。最上部に、黄色で微妙なタッチを入れており、硬質ですがカラカラに乾いた亀さんの足下の大地と比べて、微妙な感触の違いを表現しています。多くの部分を紫で描ききった独自な世界、人間の飲む行為を生き生きとさせながら、亀の動物性を減退させなかった表現力等、様々な独自性がこの作品に息づいています。一般的に多い、ブルーや水滴を基調とした見かけだけの美しい「きれいな水」の固定概念を柴作品は突破していると言ってよいでしょう。その本質が、山紫水明のきれいではなく、健康を目指した必須の水のきれいさが扱われているのかも知れません。
「みんなで守ろう 京の山・川・海」
精華町立山田荘小学校 4年
出口 真奈未さん
講評
出口真奈未(精華町立山田荘小学校、4年)さんの「みんなで守ろう 京の山・川・海」を佳作としました。
この作品を見る人は、豊かな印象深い3つの笑顔に出会います。森の環境、川の環境、海の環境が上下に3層になって表現され、それぞれが豊かな笑顔をしているのです。この3つが滑らかな曲線で、繋がっています。3者の笑顔の調和、笑顔の共鳴が作品から奏でられているのです。文字のエリアも上下に大きくとっているのに、作品から受ける印象は大きなものがあります。これは、この笑顔の構図の独創力にあるのではないでしょうか。
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ここで最上部、森の環境を見てみましょう。木々が生え緑が豊かです。「しずかですずしい山の夏」と木の虫が言ってくれています。森の笑顔の口元のゆったりしたカーブが、にこにこ笑う鳥に近いので、右の木に「すーっと」飛び移る鳥の飛行とダブルイメージとなっています。飛び移る先には小鳥が巣で待っているのでしょうか。静かで涼しい森の状況と、動物の移動というダイナミックな動作の両面が森に溶け込んでいることが体験できます。
絵の中心部分には、川の環境が取り上げられています。「水がすき通っていてきれい」と、川の中の小岩が話してきます。この小岩に誘われるかのように山椒魚でしょうか、魚や亀、トンボたちがこの小岩の方向に寄ってきています。水が透き通っているので、川底までもが見えているようです。様々な形の濃い色の岩や明るい色の小石でしょうか、動物たちの生き生きと生きていける環境が表現されています。岩が画面左に多いので、水生生物の遡上もイメージできるでしょう。笑顔と生物多様性など豊かさの実態の相互の関係がキャッチされているのかも知れません。
作品の一番下は、海の環境です。海には、ピンク色の魚やゆったりと白いクラゲが泳いでいたりと沢山の生物がいます。生きものなのでしょうか。海の中からトゲの多い小さな何かが「キュッとキュッと鳴く、鳴き砂の浜」があると教えてくれています。鳴き砂浜は綺麗な海岸の象徴的存在です。教えてくれているものが生物とするとトゲのある絵は、ウニやその子ども(プルテウス幼生)、クラゲの子どもの段階(ストロビラなど)にも見えます。綺麗な海岸の「星の砂(有孔虫の化石)」かも知れません。
このように、思いを込めた足跡や発想が随所にあり、この作品から森・川・海の3者の環境の繋がりを楽しみ、様々な営みの不思議を連想したり、発見できる作品となっています。
「みどりがあるといいね」
京丹後市立網野中学校 1年
田中 菜々美さん
講評
田中菜々美(京丹後市立網野中学校、1年)さんの、「みどりがあるといいね!!」を佳作としました。
この作品の中央の木製の基本形態は、箱の漂流物なのでしょうか。海か川に面した砂地に、風雨にさらされてもしっかり残っている構造物があります。その箱のような中から、遠景となる風景が見えているのです、みずみずしい草が生えてこようとしているのです。昨日芽を出したのではなく、少し成長して姿がはっきりし始めた頃でしょうか。
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この作品からは、小さな所かもしえませんが、緑の発見の喜びが大きな価値を持っていることを教えてくれています。植物には、小さくても大きな可能性があり、随所で芽を吹く可能性があることが暗示されています。海や川などにのって、様々なところに緑は運ばれていきます。この作品は、作品を見る方に、「みどりがあるといいね!!」という感動を探しに行きましょうと言っているようです。
「少しずつでも 守ろう 環境を」
宇治市立西小倉中学校 2年
木原 悠稀さん
講評
木原悠稀(宇治市立西小倉中学校、2年)さんの「少しずつでも 守ろう 環境を」を佳作としました。
この作品は絵の中央に、赤い空き缶やグリーンのビンなどを金ばさみで袋に入れて拾ってくれている人が描かれています。身近な環境への活動をすることをしっかり行う大切さに着眼した作品です。
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絵の上部の背景に注目すると、少し暗い色の青色から徐々に明るい色へ、人の短パンの青色、手に持つ袋を一層明るい青色へとゆっくりと、グラデーションで色を変えていっています。足下の灰色も左の地面から、右の人の立っている明るい灰色の地面へ徐々に明るくしていっています。一方、人の履いている暗い色の靴から、手や足・顔には、オレンジ色に明るい灰色を混ぜて、変化をつけ、背景の構造物や首には、その中間の明るさの暗めのオレンジ色が配置され、明るさのアクセントとなっています。この作品は、同じ系統の色味に絞り込み、明るさを変えていくことで、卓越した安定感のある整理された色調を生み出してきています。最も明るいのは、人の着ている白いシャツです。文字の黒との対比が美しく目に映えてきます。ボランティアの清掃活動に参加してみると、一人ひとりは黙々と拾っていますが、こんなに捨ててあったんだと驚くほどの量のゴミが集められます。この作品は爽やかな明るい白いシャツで表現し、そっと背中を押してくれているようです。
「いつまでも みんな笑顔の 京都が いい」
宇治田原町立田原小学校 4年
矢野 瑛都さん
講評
矢野瑛都(宇治田原町立田原小学校、4年)さんの「いつまでも みんな笑顔の 京都が いい」を佳作としました。
この作品は、中央に黄色の円の中にメッセージをえがき、上部に京都の風物、下部に多くの人達を配置した作品です。下部に目を移すと約28人の人(一部動物)を描きわけています。
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小さな子どもから野菜を扱っている人、お商売をなさっている人、お医者さん、和服の人、洋服の人、勉強中の人、おしゃれをしている人など様々な方を作品に参加させているのです。一人ひとりの個性までを的確にとらえ、これほどの人数をここまで集めてくると、人々の姿からまさに熱気が伝わってくるところです。現代が、みんなが笑顔で生き生きと暮らせることと、環境の問題が深く関わっていることに思いを至らせる作品として高く評価しました。
「あかるくて げんきな ミライにしよう」
長岡京市立第四小学校 1年
横町 夏美さん
講評
横町夏美(長岡京市立第四小学校、1年)さんの「あかるくて げんきな ミライにしよう」を佳作としました。
2020年は、新型コロナウイルスの感染症の拡大で、世界的に笑顔を表現しにくくなった年になりました。この作品は、中心に地球を描き、2人のファッショナブルな服を着た人が、笑顔で明るくて元気な未来にしようと励ましてくれているようなメッセージポスターです。
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例えば顔の表現も、活気が溢れる表現とするために 一色で塗りつぶさずに、色の明るさや色味の濃さを混色しながら完成させています。着ている服も、左の人は凝った柄の服を身に付けているのに対して、右の人は、色の選択が大胆な着こなしをしています。髪型も左の人は茶色の髪、右の人は黒くて束ねた髪型にしています。手も左の人は、左右に自然としていますが、右の人は後ろに回しています。好みや個性の違う2人ですが、明るくて元気なところが共通しているのです。環境問題は、人の生活や幸福と密接な関係を持つようになりました。そして、少しこうありたいという願いを持つ必要が出てきています。多くの人が、横町作品から嬉しい元気をもらうことでしょう。
総評
観点「学習と環境とのつながり」
(審査委員 京都府教育庁指導部 学校教育課 辻本和久)
今年度は、これまで学校の授業において、ひとつひとつ別の教科として学んできたことを、「環境」という視点から、理科や社会科の枠を越えて教科横断的に考えられた作品が数多くありました。
また、今の世の中の状況に対しても高い関心があることを感じられる「緊急事態宣言」「go to」などの言葉をうまく活用し、印象に残る標語にする工夫も見られました。
さらには、まだ、学校で習っていない内容であっても、自ら調べるなど、環境への危機感を持った作品が見られたように思います。
これからも、身の回りの自然環境のため、学校で学んだことを身近な生活の改善に活かせるようにしてほしいと願います。
京の環境ポスターコンクールの全体講評
(審査委員 京都府総合教育センター北部研修所 地域教育支援部 奥野悦子)
今年度は、新型コロナウイルス感染症の影響で、年度当初から臨時休業となり、学校再開後も様々な制約の中での生活が続いています。大変な状況の中ですが、私たちのよりよい環境についてじっくりと考えられた作品が数多く集まりました。特に、自分の伝えたいことをしっかりと持ち、それを自分の言葉と絵で表した作品が例年にも増して多くありました。ニュースや日々の生活の中から今の時代を捉えた作品も目を引きました。
本コンクールは、例年は展覧会を開催して皆様にご覧いただいていますが、今年度は、Webで入選作品を掲載するなどの取組を新たに実施することになりました。子どもたちは身の回りの環境について、どのように考え、どんな思いや願いを持ち、どのように工夫してポスターをつくったのでしょうか。どうぞご覧下さい。